拾穂文庫CardWirth史年表用語集【か】

CardWirthの名の由来

CardWirthという名称の意味、とくに「Wirth(ワース)の意味」は、時折コミュニティにおいて話題になる。

groupAskによればCardWirthは「造語」であり、「Wirth」に特に意味はないというのが公式見解ということになる。

しかしユーザーの間では「どこからか出てきた」“ワース”という言葉の「意味」や「出所」をめぐって、いくらかの願望も交えた解釈・憶測が行われている。「伝説」や「宿の亭主」と解説されることがしばしばあり、これに「古英語で」という説明が付け加えられることもある。

目次

公式見解

groupAsk赤塚氏は、2000年4月に書かれたCardWirthエッセイにおいて、「CardWirth」の名称について以下のように記している。

システムがカード型のインターフェイスを主体としたものになったので、「カード」の言葉を入れることはすぐに決まりましたが、それに合わせる言葉がなかなか見つかりませんでした。数日間悩んだ末、どこからか「ワース」という言葉が出てきて、「カードワース」となったのです。[↓註]

すなわち、CardWirthは「造語」であり、「Wirth」に特に意味はない、というのが公式見解である。

Wirth=「伝説」説

言説の展開

Wirthを「伝説」ととらえる言説は、赤塚氏によって“公式見解”が示される前の1999年に登場している。

1999年7月24日、CardWirth Users'Network(旧) において ふらう・えむ氏は

「CardWirth」という名前の由来って何なんでしょう?
私が持っている(だけのキレイな(^^;; )辞書類で調べてみたところ
一番怪しかったのは独逸語の「Wirt」(飲食店の主人って書いてある)かな〜とか
思ったりしたのですが、全然違ってたりして…。
[↓註]

と投稿している。これにたいしてアムリタ氏

素直に英語で調べてみた所、「Wirth」が「伝説」という意味だったような。 [↓註]

との返信を行っており、続いて「冒険は、いつしか伝説へと変わっていくのですよ(笑)」と書き込んでいる。

"Wirth"を「伝説」に明快に結びつける証拠は、竹庵の管見の限り確認できない。「だったような」という語尾になっているように、情報の確度は曖昧であり、アムリタ氏の記憶違いや誤解である可能性はある。アムリタ氏が依拠したはずの英語の辞書についての情報は示されておらず、原典を確認することはできない。

しかし、CardWirthを「札伝説」と解釈する言説は広がりを持ち、CW大辞典(第一期)においても砂男氏によって「『札伝説』とでも訳すべきか」との書き込みがなされている。「Wirth=伝説」説自体がいつしか一種の「伝説」へと変わっていくことになるのである。

検証と考察

The Oxford English Dictionary(OED) The Second Edition には、

Wirth, -y obs. forms of WORTH, WORTHY

ともあり、"wirth" は、英単語"worth" (ワース)の古い形の一つであることを知ることができる。"worth"は、現在も名詞としては「価値」「量」「財産」の意味で、形容詞としては「〜の価値がある」「〜の財産がある」といった意味で、使われている単語である。

形容詞"worth"の用法には、現在使わなくなった意味として「(廃)(重要な・あるいは多くの)敬意や名誉を捧げられる」(Of Persons: of account or importnce; entitled to respect or honor; worthy. Obs.)、「(廃)(なにかであったりなにかをしたりすることによって)賞賛されるにふさわしい手柄のある」(Of sufficient merit, entitled merit, deserving, to be or do something. Obs.)であるとかの意味がある。これらは「伝説的な〜」「伝説の〜」に意訳できないこともないだろう。形容詞"worth"は、古い時代には"wirth"の形も取っていたようだ。

名詞"worth"の用法には、「ある物事の質や評価に関連する価値」(The Relative value of a things in respect of its qualities or of the estimation in which it is held)、「ある人の特性や知性の面での特徴や地位、特に高い功労や業績」(The Character or standing of a person in respect of moral and intellectual qualities; esp. high personal merit or attainments)であるとかの意味がある。ただし、OEDは名詞"worth"の古い形として"wirth"は挙げていない。

Wirth=「宿の亭主」説

言説の展開

ドイツ語の「Wirt」(ヴィルト)には「(旅館・飲食店の)主人、おやじ」「間貸し人、大家、家主」という意味がある[↓註]。すでに前項のふらう・えむ氏の投稿にも現れている通り、ドイツ語「Wirt」の存在は早い時期から一部で認識されていたようである。

赤塚氏の「回答」以後の2001年3月8日、CardWirth Users'Network では、ゆりっぺ氏が「Card WirthのWirthって・・。」という問いかけを行っている[↓註]。これに対して にしきた協会氏が「『伝説』って意味らしい。しかも英語。詳細不明。」と返信しているが[↓註]、これは、アムリタ氏の「伝説」説を想起したものであろう。

mishika氏は、次のような書き込みを行った。

間違ってたら訂正して欲しいんですが、英語の古い言い方なんではないかと
英語の辞典で詰まったときは、同じアングロサクソン系のドイツ語で似たようなものが出でくることがあります。

Wirthと良く似たWirtという言葉がドイツ語にあって、「宿屋の主人」という意味です。

 〔竹庵註:中略〕

ということで、僕はCard Wirthを「カード/宿屋の主」と解釈しているんですけど、いかがでしょうか。[↓註]

検証と考察

掲示板でのやり取りでも書き込まれていた通り、ドイツ語の Wirt (ヴィルト)は「宿の亭主」の意味である。

The Oxford English Dictionary(OED) The Second Edition によると、

|| Wirt (vɪrt). In 9 Wirth. [Ger.] The landlord of a German inn.
1858 GEO. ELIOT Jrnl. July in J. W. Cross Life (1885) II.vii.48 The stout, red-faced Wirth. 〔竹庵註:後略〕

とある。ドイツ語由来の Wirt 「(ドイツにおける)宿の亭主」はそのまま英語で「外来語」として使われたのだが、Wirth という形でも使われていた、というのが上記の記載である。用例として、「がっしりとした赤ら顔の Wirth (宿の亭主)」という、作家ジョージ・エリオットの1858年の日記の一節を(1885年に刊行された彼女の評伝から)引いている。ただし、Wirth の発音はドイツ語そのままに「ヴィルト」である。

よりによって「Wirth」と「宿の亭主」との関連が見出されたのは興味深い。

「意味」はそれぞれの心にある

この言葉の意味を認識して命名したと groupAsk から言明されたり、それを推認する論拠がない限りは、Wirthの「語源」を断定することは不適切である。あくまでも、ユーザーによって後になってから意味づけが付け加えられた、付会の説にすぎない。

ゆりっぺ氏が立てたスレッドには、2001年3月10日に大森氏が次のような返信を行っている(強調部は大森氏)。

以前にも何処かで、同じように議論されてた事があったのデスが……
その際ににしきた協会さんが記述して下さった通り、「Wirth=伝説」と
解釈した事があったような気がしマス。

大森の解釈は、CardWirth=『札の織りなす伝説』
メルヘン的にもファンタジー的にもこれがいいかなー、とか
勝手に考えちゃったりしていマス(^-^ [↓註]

Wirthという言葉に隠された「意味」「語源」を追求するというよりも、それぞれの「解釈」を記す方向に話題がにシフトしている。

何の意味の無い言葉ではなく、牽強付会でもいいから、何かしらの特別な意味をそこに見出したい、というユーザーの想いが窺える。「伝説」説の人気は、多くのユーザーのゲームイメージに沿うものがあったためであろう。

謝辞

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