拾穂文庫CardWirth史年表

CardWirth略史

下記の「時代区分」は、竹庵による恣意的な分類です。

目次

草創期 (1998年8月〜1999年8月)

最初は、もっと簡単なものを作るつもりだった。
例えるならば、小さなブリキの玩具だ。
手持ち無沙汰な時に、ゼンマイ仕掛けでカタカタと滑稽に動き、
ほんのちょっぴり目を楽しませてくれればいい。
もちろん、人様に見せるようなもんじゃない。
自分の机の片隅にちょこんと置いておくだけのつもりだった。

―― groupAsk 齋藤氏「ブリキの玩具」、《CWエッセイ》第44回

カードワースの黎明 1998.8〜1998.12

groupAskが開発したCardWirthは、1998年8月に発表されました。この頃、パソコンが一般家庭にも普及するようになり、「インターネット」も学校や会社で使うものから個人が使える技術になりはじめました。このCardWirthはインターネットを通じて発信され、そしてCardWirthを受け取った誰しもが容易に「自分がつくったシナリオ」を生み出し、世に送り出すことができるという、新しい魅力を湛えたゲームでした。生まれたばかりの、無限の可能性を秘めたゲームを手にしたユーザーたちは、手探りの中で「CWの世界」をつくりだしていきました。1998年10月には、公式ギルドが開設されました。

伊達氏サカジノボリ氏などのユーザーの手により、レタルエルムやセシル・ネイヤーといった「人気キャラクター」たちの物語が生み出されました。邪教「クドラ教」の設定や「アニキ」もこの時期の登場です。「中世ファンタジー」から飛び出し西部を舞台とするシナリオや、カジノシナリオも登場しました。砂雲堂氏のカード素材や、maher氏の写真素材の提供も行われ、シナリオ制作を支えました。

1.15時代 1998.1〜1999.8

この間もエンジンのバージョンアップが重ねられ、通常のPCの成長上限がレベル10になる(1.14)などの改訂が行われました。1998年12月末1.15エンジンが登場し、リューンの楽曲が現在のものに変わるなど、現在の形に近づきました。次期エンジン1.20の登場までの安定期を迎えます。

この時期には雑誌紹介も盛んに行われるようになり、多くの人にCardWirthが知られるようになりました。シナリオの制作者も増え、リューンの鍛冶屋伝説地図悪役シナリオなどの「企画」が試みられるようになりました。また、TRPGの息吹を伝えるシナリオ、CWの機能に挑戦した技巧派シナリオ、文章で迫る読み物シナリオ、グラフィックや演出に力を入れたシナリオ、宇宙や現代を舞台にしたシナリオ、連作、クロスオーバー、コミカル、シリアス、狂い、萌え、そしてアニキなど、さまざまなシナリオの形が、この頃にその姿をあらわすことになります。

1.20時代前期 (1999年8月〜2001年3月)

怒濤と混沌 1999.8〜2000.4

CardWirth ver.1.20 宿画面
ver.1.20の通常宿の画面
※画像内の素材の著作権者:groupAsk

CardWirthエンジン・エディタの改良は、groupAskの手によって重ねられていましたが、1999年8月にはエンジンver.1.20が登場します。「デバグ宿」の設置、jpgの利用など、多くの機能が加わって便利になったこのバージョンが、groupAskが発表したエンジンの最終形態として定着します。このエンジンはCardWirthが量的に拡大した時代を支えました。そしてgroupAskが去ったあとも多くのユーザーに愛用されることになるのです。

パソコンの普及期、CardWirthは多くのコンピュータ雑誌メディアに紹介されました。「無料のゲーム」として紹介されたり、ユーザーが作ったシナリオが雑誌の「付録」として収録されたりしました。CardWirthはちょっとした「ブーム」となりました。

技術的には、2000年2月、立体的なダンジョン表示を可能にしたQUBESが登場し、視覚的な表現の幅を広げました。

ある曲がり角 2000.4〜2001.3

2000年4月にはgroupAskの新サイトが開設され、ツリー形式の掲示板"CWUN"の設置されました。いままでgroupAskが手作業でおこなってきたギルドも半自動化され、検索機能等を搭載して生まれ変わりました。

「なんのためにシナリオをつくっているのだろう」「どういうシナリオが面白いのだろう」「どうすればよりよいシナリオができるのだろう」。CardWirthというゲームのユーザーの裾野が広がり、さまざまな人がプレイしたりシナリオを作ったりするようになると、そうした意見は容易にまとまらなくなりました。「自分の作りたいシナリオを思い通りに作りたい」というシナリオ作者と、「面白いシナリオだけをプレイしたい」というプレイヤーの間の対立はこれ以前からありました。2000年6月、CardWirthコミュニティに、AA騒動と呼ばれる騒動が持ち上がります。拡大・疾走をつづけてきたCardWirthは、一つの転機を迎えます。

コンピュータ・インターネットの家庭への普及を追い風に裾野を広げたCardWirthでしたが、ネット上にはほかに多くの楽しみがあらわれるようになりました。市販のツールである「ツクール2000」(2000年4月発売)は拡張性の広さを誇り、ネット上に多くの魅力的な作品と、多くの創作者を生み出しました。また、すでにMMOとしてはウルティマオンライン(1997年)がありましたが、ブロードバンドの普及とともにMMOも気軽に参加できるものとなり、リネージュ(2001年6月)などもサービスをはじめ、成長を遂げていくことになるのです。「わたしのPC」を操ることのできるMMOなどに移っていく人々もありました。

1.20時代後期 (2001年3月〜2003年6月)

世代交代の波 2001.3〜

2001年3月、公式サイトの掲示板CWUNが、新たな形で復帰します。しかし一方、groupAskのみなさまはそれぞれご多忙となり、ギルドや掲示板の管理以外からは(これも膨大な労力を要するものですが)遠のかれることになるのです。2001年6月、エディタver.1.25.016の発表が、CW開発者としてのgroupAskの最後の活動となりました。CardWirthはユーザーの互助によって動いていくことになります。

草創期からのユーザーたちや、ユーザーによるコミュニティにも、それぞれの事情から活動を縮小・停止するところがあらわれ、初期の名作と呼ばれる作品の中にも入手できないものも出てきました。全盛期には毎日のように新規シナリオが登録されていた、と伝えられるギルドにも更新もない日が続くようになりました。

一方で、新たにCardWirthというゲームを知った人でシナリオ制作に参加する人も続きました。これまで蓄積された技術や知見を活用して、 Fuckin'"S"2002氏(作品発表:2000〜)やABC氏(2001〜)、ブイヨンスウプ氏(2001〜)、MNS氏などによって、演出や脚本にすぐれた作品が生み出されています。品川コータ氏(2001〜)、圭氏も特徴的な作品を発表しました。ほかの楽しみにはないものが、おそらくCardWirthにはあったのだと言えるかも知れません。

1.28時代第一期 (2003年6月〜2005年11月)

「愛護協会」の発足 2003.6〜2005.11

CardWirth ver.1.20 宿画面
ver.1.28の通常宿の画面
※画像内の素材の著作権者:groupAsk

2003年6月、CardWirthの開発者であるgroupAskさんの手から、ユーザー側(カードワース愛護協会=SPCW)に公式ギルドの運営が託されました。

2003年8月、groupAskが大方完成させながらプログラムソースを紛失した、といういわくのある改良版が愛護協会の手によって新たなエンジン(ver.1.28)としてはじめて公開され、2004年4月に完成版が公開されました。

新エンジンには、旧エンジンでつくられた一部のシナリオとの互換性に問題がありつつも、金庫の設定、PC不在処理、デフォルト効果音の増加など、ゲームプレイやシナリオ制作に新たな可能性も広がりました。エンジンの過渡期として、しばらくは1.20対応のシナリオと1.28対応のシナリオが混在していました。

ユーザー間の交流を図る新たなコミュニティーが開設されたり、魅力的な演出の可能性を秘めた「エフェクトブースター」が提供されたり、世界を置き換える「バリアントエンジン」制作の途が開かれたり、二次創作「CardWirth Party」のような楽しみ方が開かれたりしています。

1.28時代第二期 (2005年11月〜)

第二期「愛護協会」 2005.11〜

2005年11月30日、一時機能を停止していたSPCWは体制を組みかえ、公式サイト・ギルドも http://www.cardwirth.com/ に移って活動を再開しました。

「第二期」SPCWは、短編シナリオ集「「寝る前サクッとCardWirth」の配布など、いくつかの新しい試みを行い、CardWirthの魅力の再発見を図りました。

1.28時代第三期 (2008年3月〜)

10周年を迎えたCardWirth 2008.3〜

2008年3月30日、公式サイト・ギルドが http://cardwirthaigo.sakura.ne.jp/ に移りました。

CardWirthの公開から、10年近い月日が流れています。むかし雑誌についてきた付録でCardWirthを知ったという人が、「まだ続いていたのか」と驚くこともあります。

かつてのCWUNのように、多数のユーザーが集う中心的な場は、残念ながら存在しません。CWUNは、ギルドの維持管理という大役を担っていますが、強い企画力や牽引力を持っているわけではありません。コミュニティは分散し、俗に「オモテ」と呼ばれる「公式ギルドへの投稿を志向する」界隈には、確かに往時の賑わいはないかもしれません。

しかし、むかしと引き比べて「衰退」の危機が叫ばれるのは昨日今日のことではありません。それでもシナリオを作る人があり、素材を提供する人があり、シナリオをプレイし楽しむ人がいます。

このシンプルで、無限の可能性を秘めたCardWirthというゲームは、いまなお時を刻んでいるのです。

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