THU 氏 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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サイト | ◇THU氏《酔生夢死》 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
活動時期 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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THU(てぃーえいちゆー、てゅー)氏は、1999年頃から2003年頃まで活動したシナリオ感想(「批評」)執筆者。
概説
公式ギルド登録シナリオの感想を網羅的に執筆したことで知られ、対象となったシナリオは約1200件に及ぶ。また、「駄作屋ボブの憂鬱」を執筆し、(氏の観点での)よいシナリオ制作のための心構えを示した。
「シナリオ感想」の更新は2003年2月を最後に行われていない。2003年3月11日、〈CardWirth小辞典〉を開設するが、同年9月頃には更新を停止している。
ネット上での活動の中心がCardWirthから離れて久しい。しかしCardWirth関連コンテンツの維持は行われており、「シナリオ感想」のギルド検索は、現行ギルドを検索できる生きたシステムである。ただし、登録が引き継がれずにデッドリンクになっているものも多い。
活動と軌跡
代表的感想サイト《酔生夢死》
開設、批判、再出発
1997年9月、サイト《酔生夢死》を開設。もともとはテキスト系のサイトであり、市販ゲームのレビューなどを行っていた。一般に「クソゲー」と評価されるファミコンゲーム「カラテカ」の紹介でも知られ、実体験を記した「応援団物語」や小説・詩などのテキスト系コンテンツもある。
1999年4月29日に、groupAsk公式サイトは《酔生夢死》とリンクを結んでいるので、この頃にはCardWirthコンテンツが作られていたと考えられる。1999年8月29日、CWUNにおいて「ギルドに登録されているほぼ全シナリオの感想(?)とお勧め度なるモノをHPにアップしてみました」と発言した。しかし、のちにTHU氏が回想するところによれば、この時の「感想」は、
当時は「おもしろい」「つまらん」「クソ」などとあまりに単純に各シナリオをぶった切るかのようなまさに個人的な感想そのものであり、さらに基準も定かではない点数評価も行われていた
という[↓註]。このため、「第二次批評論争」と称される論争の渦中に立った。その後、批判された点を全面的に改稿して活動を続けることとなった。
《酔生夢死》の「シナリオ感想」は、CardWirthが量的な拡大を遂げ、同時に「ゲームとして問題のあるシナリオ」も多かった時期に、「“地雷”を避けておもしろいシナリオだけをプレイしたい」というプレイヤーの要請に応えるものとして参照された。外部のフリーゲーム紹介サイトで、CardWirthを紹介するときに併せて《酔生夢死》が触れられることも多かった。
感想のスタイル
THU氏は、いわゆる「辛口感想」で知られた(2008年1月現在閲覧できる感想総数は1199件、このうち「お気に入り」「オススメ」双方をつけたもの37点、「お気に入り」のみをつけたもの29点、「オススメ」のみをつけたもの25点)。THU氏は、プレイヤー/PCの行動を重視する、ゲーム性の強いTRPG風の作品を是とする傾向が強く、表面的な派手さのないがしっかりとした基盤を持つ「良い意味での凡作」を愛好した[↓註]。
他方、視覚や音声による演出にこだわったシナリオ、NPC中心のシナリオや、読み物系のシナリオ、また「アニキ」「狂い」「親父」に代表されるような「コミュニティの共有」を前提として成り立つ、いわば内輪向け・常連向けのシナリオに対しては、概して否定的姿勢を示した。「Ultimetae Quest(アルクエ)」に対する以下の評言が象徴的である。
「結局このシナリオは、プレイヤが楽しむ物ではなくて、作者が楽しむためだけに作られた物であり、後書きで「楽しかった楽しかった」と連発している辺りを見ても、どうもダメ同人誌を連想させられます。本来はプライベートシナリオとすべきだったのかもしれません。各作者のすべてのシナリオをプレイしているという自信のある人はプレイしてみるのも良いかもしれませんが、それでも面白いかどうかはまた別で、恐らくは途中で飽きてしまうと思われます」
THU氏は「批評」の語は用いず「感想」の語を用いた。市販ゲームへのレビュー同様、プレイヤー(消費者)としての立場を全面に打ち出し、その主観的感想がシナリオのどこに由来するのかを分析して言語化してみせた。シナリオのどの点を良いと思いどの点を悪いと思ったかが具体的に書かれ、改善点の提起なども行われていることも多いが、その表現は時にかなり辛辣にもなっている。
THU氏の感想を相対化するだけの力を持つ他の「感想サイト」は氏の活動当時存在せず、そのため「批評」という創作表現をめぐる「論壇」も発展しなかった。本人が望んだかは別として、良くも悪しくも一種の「基準」であり「権威」であった。THU氏の感想は「CardWirthシナリオ感想」の一つのスタイルとして参照されて影響を及ぼし、“プレイヤー視点からの「凡作」重視”という同様の評価スタイルを取る「感想」の書き手が後に続いた。また、評価基準の明確でない、“辛口”部分のみを模倣した亜流の書き手も生まれた。
評価
THU氏の感想執筆活動に対する評価は褒貶半ばする。
いわゆる「地雷」シナリオに辟易していたプレイヤーの立場からは多く支持されたようだ。シナリオ作者の立場からは、TRPG風の“堅実なシナリオ”(いわゆる「正統派」)の基準を示してシナリオ制作の上で参考になったとする評価や、独善的なシナリオ制作を省みる契機になったという評価、氏の「オススメ」をもらうために研鑽したという声もある。
また、自作に対する厳しい評価を公開された一部のシナリオの作者との衝突も発生している[↓註]。THU氏は感想を掲載した際には、それがいかなるものであれ、必ず作者に連絡したという。THU氏は「自分の作ったシナリオ等について書かれた文章に不満があれば、嫌がらせをしたり泣き寝入りするのではなく、きちんと抗議するのが良い」[↓註]との立場を示している。それが「批評」に慣れた強靭な創作者ばかりではないコミュニティと折り合うかどうかは別の問題であるが、すくなくともその点で「感想」という創作を手がけるものとしての道理を一貫させていた。
草創期のCardWirthシナリオは、趣味や話題を同じくする少数の者の内輪、すなわち「同人」的・「文化祭」的創作環境であったと言えるが、上掲アルクエ感想に見られるように身内だけで自己完結した「同人誌」的傾向を批判したのがTHU氏であった。第一次批評論争以来、「批評」「感想」という表現行為そのものへ抵抗が大きかったとされる時期に、THU氏は「批判」を受け止めて「感想」という困難な創作を貫いた。THU氏が切り開いたものは「プレイヤー側の表現の自由」と言えるだろう。いっぽう、恒常的に「プレイヤー視点での感想」を突きつけられるようになったシナリオ作者は、「創りたいように創作する」だけではなく、良い意味でも悪い意味でもプレイヤー(あるいはその「代弁者」としての感想執筆者)を意識しなければならなくなった。読み物系のシナリオなどで「CWでする必要はない」といった冷ややかな評価を示したことが、“TRPG的”とは異なる方向を目指す多様な試みの萎縮に繋がったのではないかとする見方もある。
THU氏が活動を活発におこないはじめたCardWirthの量的拡大期、CardWirthに求められる機能はツール(作る楽しさの追求)からゲーム(プレイする楽しさの追求)へ移動したと言えるかもしれない。この結果、全体的に見てシナリオの質が向上したとも、「ウェルメイド」化が進んだとも言える。もっとも、THU氏が大きな影響を及ぼしたのは確かであるが、褒貶いずれにせよすべてをTHU氏に帰するのもまた過大である。
おもな制作シナリオ
『ブラックジャック』はミニゲームである。「感想」には、イーグル氏が執筆した感想が掲載されている。
シナリオ名 | 発表 | 備考 |
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生け贄の洞窟 |
1999/08/31 ギルド掲載 [旧:10-26] |
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ブラックジャック | サイトから入手可 |
おもな著述
- ◇THU氏「月と猫とボクと批評」、〈CWエッセイ〉第22回 (2000年)
註
- [↑] 初期の「感想」…… THU氏「月と猫とボクと批評」
- [↑] 良い意味での凡作…… 一般に「凡作」は否定的な意味合いを帯びるが、THU氏の影響を受けた感想執筆者は「凡作」を肯定的な表現として用いている。また、コミュニティの中には肯定的な評価として「汎作」という造語(ひろく受け入れられる作品、といった意味合いを持たせたものか)を生み出したところもある。
- [↑] 衝突…… 「月と猫とボクと批評」によると、「死ね死ね死ね……」と延々と書かれたメールを送られたこともあったという。とはいえ、同文章によると「作者からの苦情(嫌がらせメールを除く)はほとんどないに等し」かったらしい。
関連サイト
- THU氏《酔生夢死》(旧サイト、1997年9月〜2001年10月20日)
- http://www.geocities.co.jp/Playtown-Denei/
- http://www.geocities.co.jp/Playtown-Denei/